股関節形成不全とは
【1】股関節形成不全とは
- 股関節の形態的(解剖学的)な異常
- 症状は明らかな跛行(不自由な足どりであること)がみられる場合から、ほとんど症状がない場合もあります
- 大型犬に多発
【多発犬種】ラブラドール・レトリバー、ゴールデン・レトリバー、ジャーマン・シェパード、バーニーズ・マウンテンドッグ、ニューファンドランド - 成長期により多くの発生がみられます。
多発犬種については症状がみられなくても、股関節形成不全がある可能性が高いため、飼主は愛犬の股関節の状態を知っておく必要があります。このため、骨の形成が完成する1歳から2歳の間にレントゲン検査を受けることが薦められます。また、股関節形成不全がどのような症状を示すのか知っておく必要があります。
【2】股関節形成不全の原因
股関節形成不全の発症の要因は70%が遺伝的要因
・残り30%は環境要因
・遺伝的要因と環境要因が複合され股関節形成不全の程度が決定される。
・股関節形成不全と診断された犬は、原則として繁殖に供しないことを推奨します。
遺伝的な要因の場合は、Willisの報告にあるように股関節形成不全の因子を持つ犬同士の交配を行なうことなどが原因となりますが、発生の起因となる遺伝子が特定されているわけではありません。
環境的な要因はカロリーの過剰摂取による肥満が大きな原因です。肥満は足腰に大きな負担を与えるため、発症予防のためにも肥満にさせないことが重要です。特に1歳までに太らせると関節の形成に大きな影響を与えるため注意が必要です。
【3】繁殖記録調査結果Willis(1989)
どんな組み合せでも股関節形成不全の子犬が生まれる可能性があります。
【4】股関節形成不全の臨床症状(1)
■臨床症状のタイプ①
● 生後4~12ヵ月の若齢犬で症状を示す。
● 初期には起立、歩行、走る、階段の上り下りが困難な痛みを生じ、寛解と憎悪を繰り返す。
生後4ヵ月から1年未満の成長期には骨格が急成長します。
このため、股関節形成不全の犬は骨と筋肉のバランスがとれず、関節の緩みが生じることで関節炎となり、痛みを感じます。
【5】股関節形成不全の臨床症状(2)
●数ヵ月から数年にかけて臨床症状がないがレントゲン検査では異常が認められる。
●もしくは、若齢期では症状があったが、この時期に臨床症状が消失する。
骨格の形成がほぼ終了する1.5歳前後になると関節の緩みが少なくなり、関節が安定化してきます。これにより痛みがなくなり、症状が消失します。症状が消失すると飼主は安心して関節に対するケアをしなくなる傾向にありますが、この時期も治療は必要です。一番大切なのは体重のコントロールです。
この時期に体重のコントロールができるかできないかで、この後の症状がまったく違ってきます。
【6】股関節形成不全の臨床症状(3)
●変形性関節疾患を伴う成犬
●後ろ足の筋肉は萎縮し、すぐ座る。股関節の可動域が減少する。
変形性関節疾患は股関節形成不全の二次的な病態です。股関節形成不全が原因でおこる関節炎が進行し、関節が変形することにより発症します。変形性関節疾患は進行性の病気であり、何もしないとどんどん悪化します。変形性関節疾患になると完治は難しくなります。
【7】飼主の気づく行動の変化(1)
■歩き始めに、こわばった歩様になる
■散歩の途中で座り込む
■走るのを嫌がる
■ジャンプをしなくなる
■階段の上りを嫌がる
いずれも股関節形成不全により軟骨が損傷されることにより、軟骨に変性を起こし、股関節の骨(骨盤)と骨(大腿骨)がこすれ関節内に炎症を起こし痛みが生じるために取る行動です。
【8】飼主が気づく行動の変化
【9】飼主が気づく行動の変化(2)
■頭を下向き加減にして歩く
■歩くときに腰が左右にゆれる
【10】飼主が気づく行動の変化
【11】動物病院での検査(1)
●モンロー・ウォーク
●うさぎ跳び
●前肢と後肢の歩幅の違い
●ボクシー・ヒップ
・腰が幅広く平たい
●二足歩行試験
【12】モンロー・ウォーク
歩くときに腰を左右に振ります。後ろ足の歩幅が狭く、踏み込みが少ないです。
【13】うさぎ跳び
走るときに左右の後ろ足が同時にでます。(足先の間隔2cm~5cm)
後ろ足は歩幅が狭く、引きずるケースもあります。
【14】前足と後ろ足の間隔の違い
前足に比べ後ろ足の足先の間隔が狭く、歩き出すときの歩幅も狭くなります
【15】腰が幅広く平たい<四角い腰:ボクシー・ヒップ>
■大転子が背側の方向に変位することで腰の形状が変化する。
後ろ足の足先の間隔は、ラブラドール・レトリバーでは正常7~10cm痛みを伴う股関節形成不全では2~5cm
足先の間隔を狭くする(Base narrow)ことで外転を制限している。(股関節形成不全は股を広げると痛い)
【16】二足起立試験
両前足を持ち上げて二足起立させると、股関節形成不全では痛みのため嫌がる。
・股関節を伸展すると(伸ばすと)痛がる。
・股関節の可動域の減少正常であれば110度重度の形成不全では1/2以下
・股関節の疾患に特異的ではない
【17】動物病院での検査(2)
●後ろ足に対する背側からの圧迫
●左右の大腿周囲径の比較
●クランキング・ヒップ
●股関節伸展で痛み
③レントゲン検査
●股関節伸展腹背レントゲン像だけでは十分でない場合もある。
④その他
●関節液検査、CT検査、MRI検査
【18】後ろ足に対する背側からの圧迫
起立した犬の骨盤のあたりを手で押してみす。股関節形成不全であれば直ぐに座る
【19】左右の大腿周囲径の比較
・両手親指と人差し指で輪を作り測定。
・一方向きは指同士をつけ、他方の指が離れている間隔で測定。
・股関節形成不全では大腿部の周囲径が小さくなる。
・一般に悪いほうの足が細くなる。
【20】クランキング・ヒップ
・歩行時に大転子の上に手を当てるとコツコツと感じる。
・これは、股関節が寛骨臼内に修復されたときに発する感覚または音。
【21】股関節形成不全の治療の基本
●関節の軟骨は一度損傷を受けると元通りの正常な状態には回復しない。
■早期発見と早期治療が基本
■痛みや症状の軽減、生活の質の向上、関節炎の進行速度を遅くする治療法が重要
■肥満が関節炎を悪化させる大きな要因
●適正な体重に維持する必要がある。
【22】股関節形成不全の治療法(1)
●体重制限(減量)
●運動制限
●薬剤(消炎鎮痛剤、軟骨保護剤)
●リハビリ
・運動療法
・理学療法(レーザー、温熱療法など)
【23】股関節形成不全の治療法(2)
●切除関節形成手術
●骨盤3点骨切り術
●人工関節置換手術 など
【24】運動療法
①関節軟骨を強くする
②筋力を強化する
③体重制限
(2)2週間毎に段階的に増加し、
痛みが生じない程度の運動量を見つけだす
(3)関節炎の症状の程度によって運動量は異なる
運動制限は痛みの発現がある場合に行う。痛みがない場合には5分程度の散歩からはじめ、痛みが発現しなければ2週間ごとに少しずつ散歩の時間を延ばしていく。痛みがでてきたら量を2~4週間前の運動量に戻し、その個体にとって適切な運動量を処方する。過剰な運動は逆に軟骨を損傷するので避けるようにする。